「保険薬局主導による糖尿病療養指導」
~SGLT2阻害薬服用患者に対して当薬局の管理栄養士が介入した食事指導の1例~
場 所:札幌コンベンションセンター
研究者 :まつもと薬局自由が丘店
刀禰谷雅之、余西竜弘、田中啓介、松本健春
一色 恵(まつもと薬局管理栄養士)
【 目 的 】
新しい作用機序をもつSGLT-2阻害薬は、糖の再吸収を阻害して尿中に糖を排泄させる。特徴的な臨床症状として多尿、脱水、体重減少等がある。特に早期にみられる体重減少効果とその後の傾向として数多く見られたのがHbA1cの上昇や体重増加であった。
保険薬局主導による食事指導の介入
【 方法 】
SGLT-2阻害薬を処方された患者のうち食事指導を実施することになった患者1例に対して、医師から栄養指導指示書の交付を依頼した。そして管理栄養士による食事指導を3ヶ月間で3回行った。
栄養指導指示書
54歳 男性 身長168.6cm・体重85.7kg・BMI 30.1
診断名:糖尿病、高血圧
<指示内容>
カロリー(kcal):1,800kcal
蛋白質(g):制限なし 脂質(g):制限なし 塩分(g):制限なし
平成20年発症の2型糖尿病で、平成24年3月より当院へ通院中です。最近のHbA1c6.9~7.0%と血糖コントロールはやや不充分で経過しています。妻が栄養士をしていますが、なかなか体重が減らないため栄養指導を希望しております。効果的なカロリー制限について御指導を宜しくお願い申し上げます。
《主要薬剤の服用履歴と検査数値》
《食事指導を実施するまでの経過》
《食事指導に関わるチーム医療》
《管理栄養士による指導方法》
献立の評価
食事運動記録表への記載(3日分)→ 栄養素分析(PCソフトによる計算)
※記録表の郵送
次回の面談日に説明
食事・運動記録表
【結 果】
管理栄養士による指導から ※薬局応接室に於いて
【第1回目:12/24(昨年) 妻 対 管理栄養士】
指導内容
- 指示量1800kcalについてバランス、量の説明
- たんぱく質、塩分量が多いので、減らす工夫
次回までの目標
- 体重を記録する
- 味噌汁は、1日1回にする
その他
- 晩酌はビールから焼酎に替えた(休肝日なし)
- 仕事から帰宅後から寝る前までだらだらと晩酌⇒この習慣を変えるのは困難(妻より)
【第2回目:1/23 妻 対 管理栄養士】
前回の面談と比較して
・体重は毎日測定している
・妻は、野菜を意識するなど献立に大きな崩れはない
・体重は下がってきている
指導内容
- 再度、たんぱく質、塩分量が多いことの説明(外食や昼食でほぼ数値を摂っている)
- 夕食後の晩酌時間が長いので、寝る1時間前には、止める
- 朝のバランスや量が理想に近いので、そこをベースにほかの食事も考えてみる
指導の成果
- 毎日、体重を記録するようになった
- 減塩に気をつかっている
【第3回目:2/9 妻・本人 対 管理栄養士・薬剤師】
前回の面談と比較して
・体重は継続して測定している
指導内容
- 薬剤師より食事や運動による血糖への影響について説明(特に食後高血糖改善には、食後の適度な運動の必要性)
- SGLT-2阻害薬を服用しているので、極端な炭水化物カットはしないこと
- 尿アルブミンの検出があるので、合併症予防するための血糖、血圧管理
- 飲酒について、休肝日を作る
指導の成果
- 継続して毎日、体重を記録するようになった
- 運動について、行動変容に変化がみえた
- 妻が協力的なので、自分も何か仕様とする心の変化があった
《体重の自己測定の結果》
《体重の変化量》
調査期間H25~H27までの年末年始
医師からのコメント
- 微量アルブミン尿の検出(腎症Ⅱ期)
- 食事指導の強化(たんぱく質の過剰摂取)
- 厳格な血糖コントロールと血直近の処方薬剤
【 考 察 ➀ 】
- 家族の協力があり食事指導の基本である食事運動記録表の評価から、正しい栄養素分析の結果を伝えることができた
- 患者自身から毎日体重測定を行う行動変容の変化がみられた
【 考 察 ② 】
- 食事指導の面談に薬剤師も同席したことで、薬を服用することの意義や合併症の予防等について伝えられた。特に水分補給や糖質制限への注意
- 他職種を交えた面談により、患者自身が疾患に対して前向きな考え方や行動する姿勢が見受けられた
【 今後の課題 】
- 保険薬局における糖尿病療養指導で、食 事指導の有用性は高く、今後も血糖管理がうまくいかない患者に勧めていきたい
- 患者の行動変容に変化を与えた事は、チーム 医療の成果として把握し、今後は看護師も交えて積極的なチーム医療の構築を実践していきたい