「インスリン非導入処方による緩徐進行1型糖尿病(SPIDDM)の
治療経過と療養指導により行動変容に影響を与えた1例」
場 所:札幌コンベンションセンター
研究者 :刀禰谷雅之、澤部みゆき、齋藤未和
松本健春(まつもと薬局自由が丘店)
山田大志郎(自由が丘山田内科クリニック)
【 目 的 】
インスリン非導入処方によるSPIDDM患者の治療経過から処方薬剤の特徴、体重、HbA1cについて検討する。
又療養指導により運動に対する行動変容に影響を与えた1例について報告する。
【 対象と方法 】
来局患者の中で、服薬指導時のインタビューから抗GAD抗体陽性、ケトン体陰性でSPIDDMと判断した7例(変更:6例から)を対象に、得られた臨床数値を参考に検討した。
緩徐進行1型糖尿病(SPIDDM)の診断基準(2012)
【必須項目】
1.経過のどこかの時点でグルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)抗体もしくは膵島細胞抗体(ICA)が陽性である。
2.糖尿病の発症(もしくは診断)時、ケトーシスもしくはケトアシドーシスはなく、ただちに高血糖是正のためインスリン療法が必要とならない。
判定:上記1.2を満たす場合、「緩徐進行1型糖尿病 (SPIDDM)」と診断する。
日本糖尿病学会より
Tokyo study(前向き研究)
- Maruyama T, Shimada A, Kanatsuka A, Kasuga A, Takei I, Yokoyama J, Kobayashi T: Multicenter prevention trial of slowly progressive type 1 diabetes with small dose of insulin
1型糖尿病の発症予防に早期のインスリン治療が効果的であることを日本人で示した試験。
症例数が少ないのが難点であるが、緩徐進行型1型糖尿病を発見した場合、迷わずにインスリン治療に切り替えるべきであるという証拠となる論文である。
緩徐進行1型糖尿病において、インスリン少量投与はβ細胞の機能低下を効果的に抑制することが示唆された。
したがって2型糖尿病のうちGAD 65抗体陽性例に対しては、SU薬に代わり,インスリン投与が推奨される。
【結 果】
処方薬剤からは、DPP-4阻害薬を第一選択薬としてSU剤を上乗せした症例が多かった。
体重は、4例の増加傾向を認めた。HbA1cは、治療初期において全例で低下を認めたが、7.0%以下(合併症をおこさせない基準:熊本宣言より)を維持できたのは1例のみであった。
糖尿病療養指導士(CDEJ)による指導から運動を始めた1例を確認した。
直近の処方薬剤
体重の変化
HbA1cの推移
初診日からの測定回数
糖尿病療養指導士による療養指導により行動変容に影響を与えた1例(GAD:4)
医師より ⇒ 「いずれ、インスリン治療が必要となる1型ですよ」と説明をうけた。
薬剤師より(CDEJ)⇒ 処方された薬から考えると、2型の病態です。但し抗GAD抗体が陽性と出ているのでいずれインスリンが必要になる、いわゆる緩徐進行1型糖尿病です。あなたは数年後にはイン ス リンが必要になる1型の糖尿病です。今はまだインスリン分泌能が残っているのでインスリン注射は必要ないです。あまり膵臓に負担をかけないような生活に心がけてください。
行動変容の変化
関心期(近いうちに行動を変えようと思っている。)
※ 治療について、特に運動は、仕事の都合上できない。体力は ないと思う。でも実行するならジムに行ってみたい。
準備期を経て実行期へ⇒当薬局の運動機能施設を利用開始
※ HbA1cが上昇したのを機に、筋力アップ運動を希望される。(担当医師から運動指示箋の交付を受け)理学療法士が指導する。
インスリン非導入と導入した場合の経済的負担
【考 察】
HbA1cを7.0%以下(熊本宣言)に維持できたのは1例のみであったが、病態やSU剤の服用量などを考慮するとインスリン非導入で治療可能な症例と考える。
服薬指導に「SPIDDM」の病態説明(インスリン依存に進行する1型)を告げる(指導する)ことが重要であり、そして運動に対する行動変容が療養指導によって一歩進んだ結果から、薬局薬剤師にとって重要な過程であると思われる。
【まとめ】
- 緩徐進行1型糖尿病を確認した場合、患者への病態説明(告知)は患者の行動変容に影響を与えるほど重要な療養指導であると考える。
- インスリン非導入処方が可能な患者であれば、患者のQOLを低下させることなく治療への参画を前向きに捉えられ経済的な負担も軽減される。また2型を維持している1型と認識する病識も必要である。
- 前向き研究報告(東京スタディ)からの治療方針も考慮しインスリン非導入が可能であった症例(処方設計)と考えられる。